先日は夏目漱石「ぼっちゃん」ゆかりの道後温泉について少しだけ書きましたが、小説家と温泉という組み合わせはよく知られたものがあります。
有名なのが教科書にも載っていた志賀直哉の「城崎にて」
冒頭は、
『山の手線の電車に跳ね飛ばされて怪我をした、その後(あと)養生に、一人で但馬(たじま)の城崎温泉へ出掛けた。』
但馬は兵庫県北部。城崎温泉と言えば他にも島崎藤村や与謝野晶子、司馬遼太郎、古くは松尾芭蕉も訪れていた由緒ある温泉で、今では文人達の文学碑めぐりも城崎温泉での楽しみ方のひとつとなっています。
現在の城崎温泉(出典:http://www.kinosaki-wakadanna.com/about/)
そういえば最近、とある号泣議員が一年間に100回以上も城崎温泉に訪れたとかいう話で盛り上がっていましたが、
その話は忘れましょう。
山の手線の電車に跳ね飛ばされて怪我で済んだのか!
1913年(大正2年)4月に上京したが、同年8月に里見弴と芝浦へ涼みに行き、素人相撲を見て帰る途中、線路の側を歩いていて山手線の電車に後からはね飛ばされ、重傷を負う。(Wikipedia)
ということで実際に志賀直哉本人が大怪我をしたようですが、念のため当時(少し後の大正8年)の山手線の走行速度を調べたら時速30キロメートルくらい、ということでした。
今の時代なら平均時速が約60キロメートル、最高時速80キロメートルの区間もあるようですから、これではとても怪我ではすみませんね。
蛇足が続きました。
さてそれから、川端康成の「雪国」
海外でも評価の高い、美しい小説として有名です。
小説の舞台は新潟県の湯沢温泉で、次の冒頭の一節は有名です。
『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。』
トンネルは群馬と新潟の間にある清水トンネルなのですが、
清水トンネル(出典:http://blogs.yahoo.co.jp/haruchan1211/10869965.html)
『群馬から清水トンネルを抜けて新潟に出たら雪が降っていたのであった。』
では小説になりません。
他にも温泉が舞台として出てくる小説と冒頭部分を少し、
太宰治「津軽」 – 著青森県 大鰐温泉(おおわにおんせん)
『或るとしの春、私は、生れてはじめて本州北端、津軽半島を凡そ三週間ほどかかつて一周したのであるが、それは、私の三十幾年の生涯に於いて、かなり重要な事件の一つであつた。』
夏目漱石「草枕」 – 熊本県 小天温泉(おあまおんせん)
『山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。』
川端康成「伊豆の踊子」 – 静岡県 湯ヶ野温泉(ゆがのおんせん)
『道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思うころ、雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい速さでふもとから私を追って来た。』